話を書くブログ

作り話だけ。

ビント・スクリーン

昼前。3限が始まるまでの時間。
いつものように、キムはゲームの前に座り、格闘ゲームのコンボの練習をしている。自分も何度か挑んだことはあるが、到底わからなくて、ただ負けるのを待つだけの時間になってしまうから、最近は挑むことを諦めていた。
ーーな、やろう
キムの隣に座ってそう言うと、キムはちらりとこちら見る。コンボが終わったキリのいいところで、ps3の電源を切り、代わりにwiiのセットアップを始める。
テレビの前で誘う目的は一つしかない。
セットアップが終って画面を付けたあと、キャラを選ぶ。カーソルを左に持っていき、ピーチを選択する。キムは、左上のドンキーコング。2人とも選び終わったところで、ステージを選択する。場所は「終点」。ここまでの時間は約1、2分ほど。
5秒ほどの待ち時間の後、何もないシンプルなステージに立つ2人のキャラクター。

レディ、と一度溜めてからゲームスタートの合図。タイミングは、手が覚えている。
さあ。
カブを抜く。
ドンキーはその場でブンブン、と溜めを始める。
僅かな膠着。
カブを抜いた時点で準備は完了している。待ってやる時間なんてない。
即座に距離を詰め、カブを投げる。
同時に、追撃のため、跳ぶ。
カブを防がれる。
ジャンプした状態のまま、空中前Aで追撃。
これも全て防がれる。
続いて、もう一度弱A。
これくらいは入っても良いだろう、という希望的観測。
これも全てガードされる。残念。
もう、これ以上の追撃はダメだ。
回避で後ろに下がる。
その僅かな時間の後、ドンキーの後ろ蹴りが来る。
それはもう、躱したあと。

更にもう少し後ろに下がり、カブの準備。
それを待っていたかのように、ドンキーが前進。
後ろを向きながら。
ジャンプ後蹴り。
回避。
もう一度、追うように後ろ蹴りを重ねられる。
今度は回避が間に合わない。
左に吹っ飛ばされる。
そのまま、地面に着地する前にもう一度、ドンキーの後ろ蹴りが当たる。
手痛い。

ステージに一旦倒れる。
ピーチが倒れたその真上で、ドンキーが立ち止まる。
その位置は起き上がり攻撃待ちだろう、きっと。
即座に反対側に回避で抜ける。
ドンキーはガードを入れる。
読み通り。
さらにもう1ステップ分下がる。
B下。カブを抜いて次の攻撃の準備。

もう一度。
今度は跳ばず、地上から攻める。
回避とcスティック右同時押し。
滑りながらカブ投げ。
防がれる。
問題ない。近づければあとは殴るだけ。
弱A。
それもガードされる。
そこまでは先程と同じ。
小Aが1度入った直後、Aから手を離しZ。掴みを入れる。
入った。
一度決まったらこっちのものだ。
下投げ。
どれくらい浮くかな。
投げ硬直が終わった直後、吹っ飛ぶドンキーに合わせて跳ぶ。
空中下A、更にもう一度下A。
ドンドン。銃弾を撃ち込んでいるようだ。気持ちがいい。
最後は、空中上。
全弾ヒット。
ドンキーは空中に上がる。
まだ、いける。
地上に着いたらB下でカブを持つ。
空中進行方向に向かって、放り上げる。
ドンキーが避けた後の硬直を待って、空中NA。
ヒット。
ドンキーは左に飛んでいく。
フィールドで着地。
起き上がりを狙ってもう一度、カブを投げる。
ドンキーは1ステップ分後ろに回避、当たらない。
捕まらないか。

まあいい。
十分すぎるほど削った。
さて、もう一度。
またB下でカブを掴む。
もう一度。
回避+cスティック左でカブを投げつつ接近。
弱Aを入れるその瞬間。
溜めていたドンキーのNB。
こちらの攻撃は全て無効。吹っ飛ばされる。
横目でパーセンテージを確認。
変動は30%、今のでアドバンテージを全て返された。痛いな。ため息。
空中に浮く。
基本的には浮いた方が不利。
追撃して来る。

ドンキーの空中上A。
そのタイミングで浮遊する。
一時的に落下ストップ。
あと少しのところでドンキーの攻撃は届かない。
諦めて、急降下で降りていく。
面倒なのはここから。
ドンキーが着地地点で待つ。
動きが少ない独特な動き。スティックを上に上げたまま上強を狙っているな、とわかる。
狙いは知りつつも、そのまま降りる。
真下にはドンキー。
上強が来る。
残しておいたジャンプで回避。それは分かってた。

攻撃の後に生まれる隙。

その隙を狙って空中後ろA。
これも躱される。回避が間にあってしまったようだ。
続けて。
地上に着いた直後、地上浮遊から空中下A。4連。
しかし、これは後ろ蹴りで阻止される。左へ吹っ飛ばされる。
ダメージが溜まっているため、先程より吹っ飛びが大きい。

ステージ左側から外に出される。
凝った動きは要らない。最短の動きで崖に掴まる。
ドンキーは崖の上に立ち、溜め。
隙だらけの動きだ。
余裕ぶっている、そういう動きだ。偉そうに。
下スティックで崖から手を離し、直後に上スティックに切り替え。
そこから間を置かずに低空浮遊を入力。
ほぼ隙無しの崖上がりができる。
隙ができた。
浮遊を続けたまま、下A。4連すべては入らない。追撃も不可。
ドンキーは上に持ち上がる。
下Bでカブ。
回避rを押し、滑りながら上に放り上げる。
今度は命中。
ポコっと音がする。
よし。当たったのであれば。
落ちてくるドンキーの下に潜り込むように入り上スマ。
斜め右方向に飛ぶ。クリティカルは逃したか。

ドンキーは右側場外へ。
崖の前で立ってB下。カブを抜く。
少し跳び、右に向かって投げる。
復帰のための最適点の、少し上へ。
避けられる。それは予測済み。
避けた硬直で、ドンキーの行動を崖復帰に限定できる。
ベストの位置から少し遅れてドンキーが復帰。
向かう先は崖。
復帰を咎めるのは基本無理。代わりにドンキーが崖に着いてからの準備。
B下でカブを抜き、上に放り投げる。
崖起き上がりのタイミングと被ってカブが落ちてくることが多いので重宝する。細かくは考えない。
行動は4択。
起き上がり攻撃と、起き上がり回避、ジャンプ、待ち。
そこからジャンプの選択肢を消去。ジャンプしたタイミングで放り投げたカブに当たるからだ。
故に3択。
ドンキーは崖から手を放し下へ。
即座に復帰で崖に戻る。
待ちか。
もう一度カブを拾って投げる。
ほら。どうする?
僅かな時間のあと、ドンキーが崖から起き上がる。
こちらは少し離れて地上浮遊。
起き上がり攻撃か?
それなら、終わり次第空中横Aを叩き込めばいい。
どうする?
起き上がりのあと、攻撃はなかった。
あ。読み抜け。
即座にドンキーが上スマに入る。
浮遊のせいで避けるのに間に合わない。くそっ。
斜め左上に吹っ飛ぶ。
パーセンテージは84を示している。そろそろまずい。
追うようにドンキーが跳んで迫ってくる。
そろそろ決めようってか。
空中B右、ふわっと右に移動する。
速度も遅いし硬直も長いが、避けるにはこれで充分。

ドンキーはまだ空中、着地刈りを狙えそうだ。
着地するタイミングを狙って、こちらから寄っていく。
押し付けるように空中後ろA。
避けが入るが、最後の一瞬だけこちらの方が長かった。ドンキーが横に飛ぶ。
もう一度。
今度は空中前Aを着地に合わせて。
これも命中。
そろそろか…重いな、まだバーストには至らない。
崖に合わせるようにドンキーが復帰。
カブを上に放り投げ、今度は崖の無敵時間に合わせてジャンプ。距離を合わせる。
3択。
次は…起き上がり回避か、それは対応できる。
真っ直ぐ下に少し降り、回避が終わったタイミングでNA。ドンキーはまた場外へ。
即座にドンキーが復帰、今度はステージの真ん中へ。
追いかけて掴む。今度は上投げ。
浮いたところを追撃。
追いついた。回避されるのはもう分かってる。
それを待ち、回避の一瞬あとで、空中上A。
ふふ、これは避けられまい。
終わりだ。
キャラが遠くに流れるのは場外まで出せた印。

画面からドンキーの姿が消えるとともに、現れる「game set」の文字。
コントローラーから手を離す。
俺はふふん、と得意気に笑って、顔の向きは変えず、目線だけ隣を見る。
キムの視線は画面を向いたまま。
お、悔しがってくれてるな。
ーーなあ、もう一回やる?
その言葉に対して頷きもせず、手早くドンキーの色を変える。
さあ、楽しくなってきた。次はどうしようかな。
ふと後ろを見ると、一つの将棋盤に対して、5人も集まって感想戦に熱中しているようだ。対局してる方が置いてけぼりになってない?大丈夫?
あ、そろそろ12時55分。ここの時計って、今ずれてるんだっけ。今何時だ?
「そろそろ3限行かないとなー」
後ろから声が飛んでくる。
「は?お前3限行くの?格好悪っ」
「授業行くのに格好いいも悪いもないだろ」
「え、ほんとに行くの?」
「…行きたくなくなっちゃったじゃんか」
あはは、と笑い声。
「な、スマブラやんない?」
「お前もほんとしょうがないな」
といって隣に座ってくれる。
「あ、俺も」
といってもう一人。
「だったらチーム戦やるか」
「やろ」

昼休みは、短い。

 

 

きっともう、こんな日は来ないかもしれないけれど。